世界経済フォーラムが発行する「グローバルリスクレポート」内において、気候変動はトップリスクの1つとして明示されています。2015年にCOP21で採択されたパリ協定に基づき、気候変動を抑制すべく歩み始め、現在では140か国を超える国・地域が、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しており、日本もその1つです。
CCBJHグループ(以下、当社)は、気候変動を重要課題の1つと捉え、パリ協定ならびに科学的根拠に基づく絶対的な温室効果ガス(GHG)排出量削減目標に沿って、 2021年にGHG削減目標を公表し、2030年までにScope1,2で50%、Scope3で30%の削減を目指しています(2015年比)。また、2050年までにはGHG排出量実質ゼロを目指しています。
2022年2月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同し、続けて、TCFDコンソーシアム、気候変動イニシアティブにも参加、2023年にはGXリーグに参画し、GHG削減に向けた取り組みを進めています。
2022年は、主に重要度が高いとされたリスク・機会を対象に中期視点(2030年)でのシナリオ分析を実しました。2023年には、対象項目を広げ、長期視点(2050年)も含むシナリオ分析を実施し、TCFD提言に基づき開示内容を更新しました。
当社グループは、気候変動の緩和・適応をマテリアリティの1つと捉え、非財務目標としてGHG排出削減を含む「CSV Goals」を定めており、その達成に向けた活動を推進しています。
気候変動に関しては、2021年よりTCFDワーキンググループによる検討が開始され、2023年1月より、サスティナビリティー委員会を新設し、気候変動や生物多様性を含むサスティナビリティーのさまざまな課題に関する方針・戦略などについて体制を強化しています。
当委員会は、議長を最高経営責任者であるカリン・ドラガンが努め、年に4回開催されます。構成メンバーであるエグゼクティブリーダーシップチーム(ELT *)がサスティナビリティー課題について議論を行い、 決定した方向性や戦略を速やかに各部門へフィードバックすることにより、各部門におけるサスティナビリティー活動の徹底と円滑化を図っています。2023年には、環境施策、TCFD開示などが議論されました。
また、取締役会でもサスティナビリティー関連のリスク対策が重要だと考えており、経営方針を策定するにあたり、サスティナビリティー委員会で議論された方針や戦略の報告を受け、リスク選定および成長性を考慮しています。ステークホルダーのみなさまには、決算説明会においては、当社のESGに係る取り組みの実績を説明しています。
* ELTはCEOと各本部長を含めたCCBJHグループ全体のマネジメント組織
当社のリスク分析において、気候変動は重要な課題の1つとして特定されています。抽出されたリスク・機会に対して対応策を検討しました。気候変動に対してはより詳細な分析が必要と判断し、2022年よりシナリオ分析を実施しています。2023年は対象年次を2030年および2050年に拡大、2021年に重要度が低いと判断し、分析の対象外とした項目も対象に含め、定量分析を実施し直し、重要リスク・機会を再特定しました。
シナリオ分析はTCFDワーキンググループを中心に、取締役会や各事業部門と連携して実施しました。
分析は当社の主事業である飲料事業を対象に、1.5/2℃シナリオ、4℃シナリオの2つのシナリオごとに検討しました。前提としたそれぞれの温度帯の世界観、および参照シナリオは下表のとおりです。
インパクトの開示に際しては相対的に確度の高い推計ができると捉えたものに対してのみ2030/2050の年次を記載しております。
1.5/2℃ | 4℃ | |
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世界観 |
気候変動対応が進み、規制等の移行リスクが強まる 脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会 |
気候変動対応が停滞し、自然災害など物理リスクが強まる 温度上昇等の気候変動が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会 |
参照シナリオ | IEA: NZE, SDS IPCC: RCP1.9, 2.6, 4.5 |
IEA: STEPS IPCC: RCP8.5 |
定義 | |||
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インパクト | 大:100億円以上 中:10-100億円 小:10億円以下 |
発現時期 | 短期:2025年までに起こりうる 中期:2030年までに起こりうる 長期:2050年までに起こりうる |
重要度が高いリスク | 詳細 | インパクト | 発現時間 | 主な対応策 |
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カーボンプライシング導入によるコスト増 | ■炭素税導入およびCO2排出量取引制度の強化などによるコスト増加 ■サプライヤーにおける炭素税の価格転嫁によるコスト増加 |
中 2030 2050 |
中・長 | ■リサイクル材の積極採用、軽量化の推進 ■容器/パッケージ軽量化などによる原材料使用量の削減 |
省エネ・GHG排出などの規制強化によるコスト増 | ■省エネ・再エネに向けた設備投資などによるコスト増加 ■サプライヤーの生産コスト増加にともなう調達コストの増加 |
中 | 中・長 | ■再生エネルギー導入による外部供給電力への依存減 ■代替原材料活用への転換(日本コカ・コーラと連携) |
お客さまの行動変化への対応が不十分な場合の売上低下 | ■小売店などでの当社製品の取り扱い停止や顧客離反による売上減少 | 中 | 短・中 | ■持続可能な調達に則った製品の拡充 ■環境に配慮した製品の展開(例:100%リサイクルPET/ラベルレス) |
プラスチック関連の規制強化によるコスト増 | ■リサイクルPET樹脂などの調達コストの増加 | 中 | 中・長 | ■代替材料活用への転換、リサイクル材の積極活用 ■容器軽量化の促進 |
対応が不十分なことによる投資家・金融機関からの評判低下 | ■対応が不十分な場合の株価の低下・資金調達コストの増加 | 小 | 短・中 | ■SBT認定取得やRE100への参画(※検討中) ■TCFD・TNFDなどをふまえた積極的かつ継続的な情報開示・対外発信 |
プラスチック使用量の削減
コカ・コーラシステムでは、1970年代より有限資源の有効利用とプラスチック使用量削減のため、製品の容器包装軽量化に取り組んでいます。2021年春より「コカ・コーラ」700ml PETボトルを従来の42gから27gに軽量化しました。
「CAN to CAN」の仕組みを構築
当社が管理・運営する自動販売機横のリサイクルボックスから回収した使用済みアルミ缶を、アルテミラ株式会社とMAアルミニウム株式会社と協働でアルミ缶の水平リサイクル「CAN to CAN」に取り組み、ボトル缶胴の原材料として、「CAN to CAN」などによるリサイクルアルミ素材を100%使用した3製品の製造を開始しました。
重要度が高いリスク | 詳細 | インパクト | 発現時間 | 主な対応策 |
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異常気象による製造効率・製造数量減少 | ■水質悪化による品質維持コスト増 ■病気などのリスク上昇による対応コスト増 |
小 | 中・長 | ■BCP対応の強化 |
異常気象による事業停止 | ■工場など自社拠がの風水害に起因する操業停止により生じる、復旧・販売逸失の影響 | 中 | 短・中 | ■製造拠点、営業/物流拠点、およびサプライチェーンにおける風水害リスクの特定、および優先順位付け、対応策の強化 |
水原材料の希少化 | ■水価格の高騰による調達コストの増加 ■渇水による工場の操業停止による対応コスト・販売逸失額 |
小 | 中・長 | ■WUR (*1) の向上 ■S&OP (*2) 対応の強化 |
原材料の調達リスク | ■農作物など原材料の調達コストの増加 | 中 | 短・中 | ■調達先の分散化 ■サプライヤーとの協業(農法の開発など) |
*1 WUR(Water Use Ratio):製品1Lを製造する際に使用する水
*2 S&OP(Sales and Operations Integration)
再生可能エネルギー導入
2019年より、山梨県と東京電力エナジーパートナーが共同運営する電力供給ブランド、やまなしパワーPlus「ふるさと水力プラン」を採用することにより、白州工場では電気使用に伴うCO2排出量ゼロにしています。
複数シナリオ下における、リスクを最小化し、機会を最大化していくためにも、今回検討した対応策は、経営戦略、中期計画に反映するとともに、年次計画に落とし込むことで気候変動のリスクの低減・機会の最大化を図ります。
今後は、定量を含む分析結果の開示範囲の拡大・精緻化を推進していくとともに、社会の動向に応じ、シナリオ分析の定期的な見直しを行います。
重要度が高い機会 | 詳細 | インパクト | 発現時間 | 主な対応策 |
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省エネ・GHG削減に寄与する製品へのお客さまの需要増加 | ■環境に配慮した原材料やパッケージによる売上の増加 | 中 | 中・長 | ■環境に配慮した製品(例:100%リサイクルPETボトル/ラベルレス/リユース/パッケージレス)の開発・促進 |
効率的なサプライチェーンによるコストおよび GHG 排出量の低減 | ■再エネ・省エネ設備(施設、ロジスティクスなど)導入による電力コストやGHG排出量の削減 ■水使用量の削減によるコスト低減 |
中 | 中・長 | ■最新技術を搭載した製造機器の導入、モニタリングによる製造プロセスや工場設備の継続的な改善 ■水源涵養力向上のさらなる促進 |
温暖化にともなうお客さまの嗜好変化 | ■熱中症対策や健康飲料の売上増加 | 小 | 中・長 | ■熱中症対策や健康飲料製品の開発・展開 |
100%リサイクルPETボトルの導入
「コカ・コーラ」をはじめとする旗艦製品 (4ブランド38製品)に100%リサイクルPETボトルを導入しています。
※2023年12月時点
ラベルレス商品の導入
容器からラベルをなくすことにより、ラベルをはがす手間をなくし、リサイクルのための分別が楽になる製品です。2020年4月に発売した「い・ろ・は・す 天然水」を皮切りに、「綾鷹」「爽健美茶」「カナダドライ ザ・タンサン・ストロング」「アクエリアス」「コカ・コーラ」「ジョージア」を含む8ブランド59製品に拡大しています。
※2023年12月時点
以下に示す施策の実行を行うことを通して、2030年GHG削減目標を達成していきます。中長期的にインフラや技術開発の発展状況を明確に見通すことが難しいが、リサーチ等を通して当社にとって適切な施策を検討の上実施していきます。
リスクマネジメント体制(2022年1月以降)
当社は、リスクと機会の管理を可能にするエンタープライズリスクマネジメント(ERM)を含む、有害事象への対応と回復を行うと同時に事業の成長をサポートする予防的および対応的活動を含むビジネスレジリエンスプログラムを導入しています。当社のERMプログラムでは、気候変動やサスティナビリティーの分野を含むあらゆるリスクを検討しています。
当社は、COSOフレームワークと連動したERMプログラムを構築しており、リスクおよびビジネスチャンスの特定、リスクへの対応策の構築、迅速かつ適切な意思決定、といった事業の持続的な成長を支える包括的な枠組みを提供しています。ERM推進部は、あらゆる観点から経営陣のERMへの関与度向上のためのプロセスを実施しています。また、定期的に部門別リスクレビューセッションを実施しており、各部門のリスクオーナーと緊密に連携し、ビジネスリスクの評価と管理に取り組んでいます。
また、2022年にはリスクマネジメントフォーラムを設立し、リスクマネジメントプロセスの継続強化に取り組んでいます。当フォーラムはすべての部門を代表するシニアマネジメント層で構成され、四半期ごとに開催しています。ELTがリスクについて週次で議論を行うなか、ERMは当フォーラムでの議論の内容をELTへ報告し、ELTは四半期ごとにリスクと機会を詳細に分析しています。
本リスクマネジメント体制では、当社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクを将来の発生可能性と影響度の観点から抽出し、気候変動を主要なリスクの一つとして捉えています。 気候変動に関しては、より詳細な分析が必要と考え、2022年、2023年に気候変動リスク・機会に関してシナリオ分析を行い、その影響度を評価しています。 移行リスク(政策、評判、技術、市場)、物理リスク(急性、慢性)、機会(製品およびサービス、市場、エネルギー源、資源効率、レジリエンス)に識別し、発生の可能性、発生時のインパクトを元に優先順位付けを行っています。
当社は、2050年カーボンニュートラルを目標に掲げ、中期目標としては日本国内のバリューチェーン全体におけるGHGを2015年比で2030年までにスコープ1,2において50%、スコープ3において30%削減することを目指す目標を策定しています*。
具体的には、再生エネルギーの推進を進めるほか、容器包装・水などの資源に関する目標を以下のように定め、取り組んでおります。
GHG排出量実績の詳細(カテゴリ別など)に関しては こちらよりご参照ください。
シナリオ分析で導出したリスクの一部に対しては、既に指標と目標を設定しており、順調な進捗となっています。今後、シナリオ分析の定期的な見直しを通し、その機会やリスク対応となる指標と目標を検討していきます。また、目標達成のために、効率的なサプライチェーンによるコスト低減などを機会と捉えており、再生可能エネルギーの導入を促進するなど積極的に取り組んでいきたいと考えています。
* GHGプロトコルに基づき算出。また削減目標は絶対量に基づく。
重点課題 | 項目 | 目標値(※3) | 2023年実績 (12月末)(※4) |
進捗度 |
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World Without Waste (廃棄物ゼロ社会) |
サスティナブル素材(※1)の使用率(2030年までに) | 100% | 42% | |
サスティナブル素材(※1)使用製品の割合(販売本数ベース)(2025年までに) | 100% | 80%以上 | ||
さらなるPETボトルの軽量化(2004年比)(2030年までに) | 35% | 30%以上 | ||
販売量と同等の回収量(2030年までに) | 100% | 94.4% (※2) | ||
環境保護団体や業界団体との幅広い連携(2030年までに) | - | - | - | |
水 | 水源涵養率。工場近辺の水源、流域に注力 | 200% | 411% | |
水使用量削減(2030年までに) | 30% | 20% | ||
気候変動 | 温室効果ガス削減スコープ1、2(2030年までに) | 50% | 20% | |
温室効果ガス削減スコープ3(2030年までに) | 30% | 25% | ||
温室効果ガス排出量実質ゼロ(2050年までに) | - | - | - | |
再生可能エネルギーの推進 | - | - | - |
※1 「ボトルtoボトル」によるリサイクルPET素材と、植物由来PET素材の合計
※2 PETボトル回収率(出典:PETボトルリサイクル推進協議会PETボトルリサイクル年次報告書2023」)
※3 記載のない限り、基準年は2015年、目標年は2025年
※4 気候変動は2022年実績