2023年10月6日
当社は取り組むべきマテリアリティ(重点課題)として「水資源の保全」と「地域社会発展への貢献」を定めています。日本に暮らしていると切迫感を覚えることはあまりないかもしれませんが、世界では今、水が貴重かつ有限な資源として重要視されているのです。こうした中で私たちは、会社の事業として水資源保全に取り組み、日本国内の各地域で課題解決にも向き合っています。当社はどのような思いでこのテーマに向き合っているのか。事業を推進する経営戦略本部 サスティナビリティ戦略統括部 サスティナビリティリレーション2課の藤久保敦士と樋永久美子に聞きました。
「私たちのビジネスにおいて水はとても重要な原材料であり、水がなければビジネス自体が成り立ちません。水を大切に使い、守り、育むことは、最優先に取り組まなければならないことだと認識しています」(藤久保)
「日本は雨が多いため、日頃意識することは少ないかもしれませんが、世界的に見れば人口あたりの水資源量が不足してしまうリスクが各地で指摘されています。何も対策をしなければ『飲み水がなくなってしまう』未来が訪れるかもしれないのです。そのリスクにさらされているのは、日本も例外ではありません」(樋永)
当社が水資源保全に取り組んでいる背景を、ふたりはそう説明します。
国内最大のコカ・コーラボトラーである当社は、製造拠点として国内に17工場を展開し、飲料用として年間約40億リットル、製造工程では約130億リットルの水を使っています。事業活動に多量の水を使う飲料メーカーとして、当社は水資源保全の宿命を背負う覚悟で取り組んでいるのです。
では、水資源保全活動とは具体的にどのような取り組みを指すのでしょうか。藤久保は「最も大切なアクションのひとつに、『森林を守り、育てる』ことがある」と話します。
「なぜなら、大地に深く根を張った森林の土壌は地下水を安定させ、水の循環を守る働きを持っているからです。農林水産省の調べでは、日本の国土の67%が森林ですが、全てが自然林ではなく、戦後の建築需要増加に応える形で木が植えられた人工林も少なくありません。しかし海外から安い木材が次々に輸入されるようになると、国内の“売れない木”は放置され、間伐されることもなくなって人の手が入らなくなり、現在では所有者不明の森もあるほどです」(藤久保)
放置された森ではスギやヒノキなどの木が間引きされないため、日光が十分に当たらず、ひょろひょろと細く、弱い木になってしまいます。結果的には木が本来持っている「根を張る力」が弱まり、土壌はもろくなり、土砂崩れなどの災害につながることも。
「人がまったく関わっていない原生林では木々が強く根を張り、良い土壌を維持して、降った雨を浸透させ蓄えることができます。しかし一度手を入れた人工林は、人が世話し続けなければ良い状態を維持できません。土壌に入らず栄養素が乏しいままの水が川へ流れ出ていくと、最終的には海の生き物にも悪影響をおよぼすと言われています」(樋永)
当社が水資源保全の取り組みを本格的に開始したのは2006年。各地の工場周辺流域において、関連する自治体などとの連携を進めてきました。佐賀県の鳥栖工場・基山工場の周辺流域の約17ヘクタールの森林から始まったこのアクションは、現在では17工場全てに拡大し、23の自治体を含む52団体とともに水資源保全に取り組んでいます。
「私たちが保全に取り組む森林は公有地だけではありません。私有地の森林で保全活動を行うべく、地元の地主さんにご相談した際には『企業が入ってきて先祖代々受け継いできた山を取られてしまうのではないか』と警戒されてしまうこともありました。それでも粘り強く交渉を続け、私たちの思いを理解いただくことができたのは、地域に密着して営業や製造活動を展開してきた当社の仲間がいるからこそだと思います」(藤久保)
各地の森林保全での取り組みは一過性のものではありません。長期的に森林を育て、良い状態を維持していくために、当社は単なるCSR活動ではなく「事業」として予算を投じ、ふたりが所属する専門部署が年間計画に基づいて活動しています。
「工場周辺流域の森林を守っていく活動は、当社だけではなし得ません。各地で森林組合などの専門家と正式な委託契約を結び、樹種や年齢、生育状況に合わせた森林整備を行っています。また森林整備以外でも、作物の作付前後の水田に水を張って地中に水を染みこませていく『水田湛水』の取り組みにも予算を投じるなど、その地域で必要されている水源涵養の手法をとっています」(樋永)
これらの事業において重要KPIに置いているのは、製品や製造工程に使用した水をどれだけ地域に還元できたかを表す「水源涵養率」です。2022年の全17工場周辺流域での水源涵養率は400%を超えており、当社が製品として使用した水の4倍の量を地域の自然に戻すという大きな成果が得られています。
「ただ、工場ごとに見れば、東京の多摩工場では水源涵養率が100%に達していないという状況もありました。そのため2023年6月には、多摩工場周辺流域に位置する山梨県丹波山村および東京都八王子市と協定を新たに結び、森林保全の活動をさらに強化しています。今後、多摩工場周辺流域の水源涵養率が100%を超える見込みです」(藤久保)
ニュースリリース:コカ・コーラシステム 日本国内における水資源保全戦略を強化
2021年6月にイギリスで開催されたG7サミットでは「G7 2030年 自然協約(G7 2030 Nature Compact)」が合意され、2030年までに生物多様性の損失を食い止め反転させるという目標が定められました。国内では環境省が主導してオールジャパンで取り組む「生物多様性のための30by30アライアンス」がスタート。当社もこの枠組みに参画しています。
その活動の根幹にあるのも水資源保全。森林を守り育てることによって、多様な生物の住む場所も守られていくからです。たとえば多摩工場の近隣にある南沢緑地では、東京都がレッドリスト(絶滅のおそれがある野生生物の種のリスト)に指定しているイチリンソウなどの植生回復に取り組む地元の団体を支援しています。
このように当社は各地の水資源保全への貢献を目指していますが、藤久保と樋永はさらなる課題を見据えていました。
「日本国内で森林整備に関わる人が減っているのは、端的に言えば『お金にならないから』です。間伐した木が確実に利益を生むようになれば、林業は再び発展していくはず。国内の間伐材がさらに幅広い場面で使われるよう、新たなビジネスアイデアも開拓していかなければならないと考えています。国内には、まだまだ手つかずの宝の山がたくさん残っているとも言えるんです」(樋永)
「その意味ではグローバル基準に対応していくことも今後の課題だと言えるでしょう。間伐材で言えば、海外ではFSC認証というグローバル基準をクリアしたものが流通しています。国内の間伐材は認証を取得していないものもまだまだ多いので、グローバルで勝負していくための意識向上やオペレーション確立にも貢献していければと考えています」(藤久保)
なぜふたりはここまで、水資源保全から広がる事業に情熱を燃やしているのでしょうか。それぞれのモチベーションの源泉とは。
「現在のミッションを担うようになってから、以前には出会うことのなかった多様な方々と連携する機会に恵まれました。自治体や森林組合の方々、全国各地で地元を守るアクションを起こしている方々、そして『コカ・コーラ』の事業を支える仲間たち。こうした出会いを通じて自分の視野を広げられることで、大きなモチベーションをいただいています。サスティナビリティ推進は、本当に素敵な仕事です」(樋永)
「私は九州の田舎出身で、田んぼや畑に囲まれて育ちました。小さな頃は多様な生き物や自然に触れる日常が当たり前だったんです。でも近年では都会の昆虫たちが減り、川辺を歩いていてもサワガニを見つけられなくなってしまいました。そんな今だからこそ、自分が関わる『コカ・コーラ』の仕事を通じて、地域の自然を守ることに大きな意義を感じています。水資源を守ることで、ゆくゆくは各地の地場産業発展にも貢献できるようになるはず。こんなにもやりがいのある仕事は、そうそうありません」(藤久保)
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