コーポレートブログ

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データドリブンで飲料メーカーの課題を乗り越える!「安定供給」「輸送コスト削減」を実現したSNPプロジェクト

2023年9月6日

当社の営業地域1都2府35県各地に流通するコカ・コーラ社製品を「不足させることなく、過剰に余らせることもなく」低コストで安定供給していく——。飲料メーカーとしての根本的な課題に対して、当社では生産・物流・営業などの各部門が連動する革新的な取り組みを進めています。

「SNP(Supply Network Planning)プロジェクト」と名づけられたこの取り組みでは、気候やトレンド、販売促進などのデータ分析によって計算される需要予測に基づき、従来は属人的だった供給計画立案をシステム化しました。それにより、中長期の安定供給と輸送コスト削減を実現し、部門間の協力体制強化にもつながっているのです。

プロジェクトを主導する植田俊郎(SCM本部 サプライネットワークプランニング部 部長)は、当社のミッション・ビジョン・バリューを体現した社員を表彰する社内最高位の表彰制度「MVVアワード2022」においてミッション賞を受賞しています。従来の慣習にとらわれることなく、大胆な改革を進めることができた要因はどこにあるのか。現在の手応えとともに聞きました。

■ データ分析に基づく「リアルな供給計画」を毎週更新

「直近の製品供給を振り返ると、輸送コストが想定を上回り、輸送のコントロールを行うことが課題となっていました。また、夏場を中心に各地のお得意さまの店舗や自動販売機において、一時的な供給不足が発生することもあったんです。中長期の視点でリスクと対策を明確にし、安定供給を実現する。同時にコスト削減を両立させるための改革が求められる状況でした」(植田、以下同)

SNPプロジェクトが動き始めた背景について、植田はそう振り返ります。

従来の供給計画立案では、過去の経験を基に各計画担当者が在庫水準を設定し、その数字に基づいて各工場の生産量を調整していました。しかし気候やトレンド、販売促進計画などを人力だけで全て織り込むのは容易ではありません。特に夏前の気温が急上昇するタイミングが読みづらい時期には、需要も大きく変動します。これは飲料業界全体に共通する課題だと言えるかもしれません。

「売上を伸ばすことがミッションの営業部門にとっては、需要予測が外れて供給不足が発生してしまうと商機を逃すことになりかねません。供給不足の発生を極力防ぐべく、属人化してしまっている計画立案のあり方を変え、データに基づいて正しく判断できる仕組みが必要だと感じていました」

そこで現在は、基幹システムと連動した需要予測・供給計画の新システムが導入されています。過去104週間分の販売実績に基づいて予測が生成され、直近の計画を加えることで全ての販売チャネルの需要予測を一元管理できる仕組みです。

「新システムを使用すると、“関東エリアの自動販売機の需要予測”や“コンビニエンスストアにおける『コカ・コーラ』の需要予測”など、エリア・品目・販売チャネルごとに詳細な需要予測データを作ることが可能です。この詳細レベルの需要予測は、同一システム内で生産計画や物流計画に連携されます。これによって、需要予測に基づいた13週間先までの生産・物流キャパシティ計画を策定することが可能になるんです。キャパシティの不足を早期に発見し、供給ネットワークの変更を行うことで、将来のリスクに対する対応力が格段に上がります。これがサプライネットワークプランニングの基本的なプロセスです。さらに、月1回は年末までの長期プランを更新し、コストのかかる供給オプションを含めた長期的な供給ネットワークを管理するようにしました」

毎週プランを更新する体制にしたことで需要予測も細かく変動。直近の気象予報や予定しているテレビCM、お得意先さまでのセール情報なども従来以上に細かくキャッチしているといいます。過去のデータに加え、現在進行形の社内外関係者の動きも加味することで、状況変化に応じたリアルな供給計画を策定できるようになったのです。

■ 「効率的に生産したい」「できるだけ売りたい」各部門の思いを一致させるには?

ただ、SCM本部が精緻なプランを練られるようになっても、それだけで安定供給とコスト削減を実現することはできません。植田は「営業部門との意思疎通がもうひとつの課題だった」と話します。

「例えば、SCM本部がデータに基づいて『お茶カテゴリーの製品の売れ行きが好調だから拡大しよう』と計画しても、営業部門が『今年は炭酸飲料をたくさん売りたい』と考えていたら、結果的に生産と営業がまったく噛み合わない状況になってしまいます。営業部門が長期的にどのようなプランを描いているのか。それを理解することも重要でした」

そこで立ち上がったのが「S&OI(Sales & Operation Integration)会議」。営業・SCM・ファイナンス・調達の4部門から主要メンバーが参加し、各部門が描くプランをすり合わせる場として機能しています。「できるだけ効率的に生産したい」「できるだけたくさん売りたい」という両者の利害を調整するため、この会議にはトップマネジメント層も参加し、公平なジャッジと意思決定につなげています。

さらには、営業部門だけでなく生産部門の部門長クラスも集まり、現状の供給計画や生産キャパシティを共有する場も生まれました。現状の課題はどこにあるのか、その課題を乗り越えるためには何が必要なのかを話し合い、解決に向けて協力する文化が広がりつつあります。

「営業部門にも理解が広がっているのは、サプライネットワークプランニングを通じて安定供給やコスト削減という目に見える結果につながっているからだと考えています。従来よりも精緻になった供給計画があることで、営業現場からは『より自信を持って商談に臨めるようになった』という声が届いています」

かつての営業現場では、夏に向けた商談の場で取引先から「供給不足の懸念はないのか」と尋ねられ、明確に返答できない状況があったといいます。現在は月次及び週次でデータが更新され、オープンに共有される最新の供給計画に関する情報があるため、営業現場の商談を情報の面で後押しする体制が整いました。

■ 「地産地消の生産・配送」で輸送コストと温室効果ガス排出の削減を実現寄与

もうひとつ、SNPプロジェクトでは重点項目として物流コスト削減にも挑んでいます。その具体策は当社のエリアを6つに分け分け、「地産地消の生産・配送」に取り組むことです。

「従来は供給ネットワークを明確に定義しておらず、管理も属人的になっていたんです。どこかのエリアで供給不足が起きた際は他エリアから緊急的に手配するのですが、結果的に『九州で生産した商品を関東で売る』といったことが発生することもありました。そうなると輸送距離が伸び、コストは計画値を大幅に上回ってしまっていました」

SNPプロジェクトはここでも新システムを活用し、輸送距離のマネジメントを見直しました。各エリアの需要と、エリア内の工場の生産能力を紐付けて分析。その結果、当社の販売エリアを6つに分け、安定的に供給しながら輸送コストを削減する見通しを立てることができました。

「関東で現在進めている例では、工場の生産能力を超える需要が予測される場合、前月のうちに勤務シフト増や休日出勤を計画して生産力増強を図っています。現場のスタッフにかかる負担を軽減するため、各工場では品目ごとに最適なオペレーションを組んだり、需要が落ち着く時期に新たに休みを設けたりといった工夫を進めてもらっています」

こうして実現した輸送コスト削減の成果は、感謝の言葉とともに工場へフィードバック。スタッフ一人ひとりのモチベーションアップにもつながっています。また、これらの輸送距離の削減は、温室効果ガス排出削減にもつながり、当社が全部門をあげて取り組んでいるGHG削減の目標にも大きく寄与しています。

■ より最適化された体制で、物流・生産の設備投資計画にも貢献する存在へ

SNPプロジェクトが始動してまもなく1年。現状の供給不足は大幅に減少し、さらに輸送距離は対前年比で最大25%削減と、着実に成果が現れてきました。

さらに植田は「私自身が最もうれしかったこと」として、プロジェクト参加メンバーの意識の変化を挙げます。

「当社で定期的に行っているエンゲージメントサーベイでは、『自分の仕事が会社の業績に貢献できていると思うか』を問う設問があります。SNPプロジェクトに参加するメンバーのうち、8割以上がこの設問に対して『貢献できていると思う』と答えました。プロジェクト内では平均輸送距離などを目標数値として定め、毎週の成果を追いかけています。こうした目に見える変化によって、メンバーは会社が取り組んでいる方向性に共感し、一人ひとりのエンゲージメントが向上しているのだと感じます」

今後の課題を聞くと、植田は「計画の最適化には人の経験・知識に頼っている部分がまだ大きい」と指摘しました。

「システムを有効活用できるようになったとはいえ、最終的にプランに落とし込んでいるのは人です。人の経験・知識はもちろん生かしていくべきですが、このままでは属人的な要素が残ってしまうのも事実。今後はさらなるテクノロジーを取り入れ、さらに最適化されたプランをより短期間のうちに、より効率的に生み出せるようにしたいと考えています」

現状、SNPプロジェクトは最大で1年先までのプランを立案しています。将来的には3年先、5年先までの長期プランを示せるようになりたい——。植田はそんな青写真についても話してくれました。

目の前の安定供給や売上増加だけでなく、長期的な物流・生産の設備投資計画にも貢献する存在へ。SNPプロジェクトへの注目度は、さらに高まっていきそうです。

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