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企業価値向上のために法務部門に求められるのは攻守の両立―執行役員 最高法務責任者 兼 法務本部長 宇佐川 智一インタビュー

2024年1月5日

当社は、日本の各地域にあった12のボトラー社が統合を経て2017年4月に誕生しました。全世界にはコカ・コーラ社製品を製造・販売している「コカ・コーラボトラー」が225社以上あるなかで、当社は売上高アジア最大級、世界でも有数の規模を誇ります。変化するビジネス環境に柔軟に対応するべく、当社も法務組織の構築に注力するなか、自動車メーカーや広告代理店などで法務の専門家として活躍した宇佐川智一が2021年に入社し、現在は最高法務責任者 兼 法務本部長を務めています。「法務部門は“かかりつけ医”のような存在」と説く宇佐川に、そのビジョンや注力する活動について聞きました。

■ 法務部門は“かかりつけ医”のように、社内各所の事情を知っておくべき存在

宇佐川は新卒で自動車メーカーに入社し、6年間で株主総会やM&Aを含む多岐に渡る法務を経験しました。その後、広告代理店で約17年間働き、スポーツ法務や海外M&Aを担当、留学やシンガポール、北京での駐在経験など海外でも活躍したのち、2021年に当社へ入社しました。

宇佐川は入社する際、12のボトラーが統合した後の変革、その中でのコロナ禍において、経営陣から多くの法務的課題があることを示唆されていました。

「いざ入社してみると、確かに課題はありました。しかし、法務部門のメンバーは問題意識を的確に持ち、積極的に働き、一方で他のビジネス部門からは法務への協力的な雰囲気を感じたんです。また、経営陣からも法務に対する期待とリスペクトを感じました。課題を乗り越え、一歩一歩前に進んでいこう、この仲間となら必ずできると決意しましたね」(宇佐川、以下同)

当社は、日本の各地域にあったボトラー社が統合して全国規模の組織になりました。当然、文化もやり方も異なる中、規則や社内制度が整っていても、共通認識や運用が追いついていない点があったのです。倫理・コンプライアンス、リスクや法務に対する意識も同一ではないように思いました。課題の解決が進んでいなかった背景について、宇佐川は、「法務部門からの発信が足りていないことが要因のひとつだと考えました。ニュースレターや投稿の発信、トレーニングやEラーニングの提供など各部署とのコンタクトポイントを増やしてコミュニケーションを強化する必要性を感じました。法務部門が何をしているのか、会社にどんな規則や方針があるのかを社内全体で理解し、それを遵守する環境を整備することが重要だと考えたのです」と語りました。

宇佐川は、「社内法務部門は会社専属の“かかりつけ医”である」と唱えます。かかりつけ医は、医学の知識と経験を持ち、患者のことも普段の様子から詳細に知っているからこそ、不調が出た場合にその患者に合った適切かつ迅速な初期対応をして、場合によっては専門医や総合病院へ繋ぐ存在です。これを会社の法律業務に置き換えると、社内の法務部門が“かかりつけ医”、外部の弁護士事務所が専門医や総合病院の役割を果たします。しかしながら、法務部門が専門性の「殻」に閉じこもりがちで、これがコミュニケーションの障害となっている場合が往々にしてあるといいます。

「病気の場合でも自覚症状がある場合とない場合があります。自覚症状がある場合でもそれが病気なのかどうかは本人ではわかりません。同じように、現場の皆さんは法的な問題があるかどうか自分では判断できません。だからこそ、法務部門が積極的にコミュニケーションを取り、逆に法務部門に相談してもらえる環境が重要です。社内の法務部門が専門性に固執していると、相談しづらい環境が生まれてしまいます。私も若い頃はそのような傾向があったと自覚していますが、キャリアを重ねるうちにコミュニケーションを重視するようになりました」

コミュニケーションを重視している宇佐川は、入社当初から、組織の縦と横のつながりを重視した取り組みを実行してきました。縦のつながりは、法務部門のコミュニケーションです。宇佐川が入社した時点では新型コロナウイルスの影響で全員が在宅勤務でした。部員同士の会話の機会が減ってしまっていたことを危惧し、「つなぐ会」と呼ばれるイベントを定期的に開催。「つなぐ会」では、法務部門全員がオンラインで2ヶ月に1度集まり、毎回テーマを決めて、そのテーマについて雑談をしています。2023年からは半年に1度、対面で集まるようになりました。このほか、宇佐川自身が毎月必ず法務部門のメンバーと一対一で話す時間をつくり、距離を縮めるようにしています。

横のつながりとしては、法務部門と他部門や外部ステークホルダーとの関係強化のために「学ぶ会」を実施しています。他部門や外部の人たちを招いてお互いの仕事について学び合ったり、外部の知見を取り入れたりするものです。これも2ヶ月に1度、「つなぐ会」と交互に開催します。

また、法務メンバーは担当部門のミーティングに参加して法務情報を発信し、倫理・コンプライアンス推進部は毎月他部門が参加するワーキンググループを開催して、倫理・コンプラアインス情報・法務情報を発信・周知する場をつくっています。その他にも、さまざまなトレーニングの提供や、ニュースレターやイントラネットへの投稿をルーティーン化。イントラネットへの投稿は法務情報に限らず、工場訪問やつなぐ会の開催など、なるべく普段の法務を知ってもらい、“アクセスしやすい法務”となることを目的にしています。宇佐川は、「このようなコミュニケーションについて他部門からポジティブなフィードバックを得られている」と手ごたえを語りました。

■ 情報発信による相互理解と情熱を持った姿勢で企業成長を支援

宇佐川が法務担当者としてコミュニケーションを重視してきた背景には、社会状況の変化に応じて法務に求められる機能が変わってきたことが挙げられます。

「私が法務を始めた頃から大きく法務も変わったと感じます。トラブルや訴訟対応という受動的なものから、契約審査などの予防法務、そして近時ではサスティナブルな企業基盤整備というように時代と共に法務部門に求められる役割が年々能動的かつ広範になってきているのです。また、時代の流れとして、コンプライアンスが非常に重視されています。過去に大手企業が不祥事を起こし、法務の重要性を認識する事態が繰り返されてきました。今でも不祥事のニュースを多く見かけますが、インターネットなどのメディアの発達により、コンプライアンス違反が極端に高いビジネスリスクとなっています。監督官庁や東京証券取引所などの規制側でもコンプライアンスやコーポレートガバナンスの重要性が認識されており、それに伴い、投資家も法的側面やコーポレートガバナンスに対する要求を高めているのです。法務、倫理・コンプライアンス、コーポレートガバナンスが経営や企業価値の向上においてますます重要な位置を占めるようになっていますね」

宇佐川は、法務部門が単なるバックオフィスとして契約書の審査をするだけでなく、「正しいことをする」という企業文化を形成するための担い手であるべきとも付け加えました。事業貢献性の高い部門として機能し、不正や問題があれば、恐れずに声を上げることができるような企業文化の形成が必要と考えているのです。

このように、法務部門としての主要なミッションは企業価値の向上であり、そのために信頼される組織を構築していくことが必要となります。ステークホルダーや市場から信頼を得られるよう、適切なリスク管理を行うと同時に、コントロールできるリスクがどうかを見極め、適切なリスクテイクを支えるのも法務部門であるというバランスが求められます。法務部門のメンバーには「情熱も必要だ」と宇佐川はいいます。

「持続可能な成長企業を作っているという自負を持って、自分の仕事に情熱を持つことを私たちのビジョンのひとつとしています。それは、当社製品への愛着であったり、自分の仕事を深掘りしたり、担当している部門の業務を調べたり、他社事例を研究したりするなど、あらゆることに情熱を持つことを指します」

情熱を持って調べ尽くし、各部門のビジネスソリューションパートナーとして法務的な観点から積極的に提案し、時にはガーディアンとしてコンプライアンスや全体最適を考慮する……「攻め」と「守り」の姿勢を両立していくことがミッション達成につながるというのです。

「守り」を担う法務については一般的に理解しやすいものですが、「攻め」、すなわち法務における情熱を持ったビジネスソリューションについて宇佐川に尋ねると、「他部門から相談されたことを法的観点で表面的に見て判断するのではなく、ビジネスソリューションパートナーとして会話し、実態を把握し、自ら提言していく。法務が関わることで、『できなかったこと』や『できないとされていること』を可能にする。メンバーには、そうした視点を持って仕事をしていこうと伝えています」と話しました。

■ オペレーション改善やデータ活用でさらに事業貢献できる法務部門に

事業貢献のためにコミュニケーションを重視するよう動き出した法務部門の現状の課題のひとつが、ナレッジ共有が十分でないことです。法務の専門的な知識を持つメンバーですが、たとえば同じような問い合わせに都度別々に回答していたりするなど、法務本部内や現場部門とのプロセスにおいて非効率な側面も多々あります。また、AIを活用した契約レビューツールなどリーガルテックの進化は目覚ましいものがあり、活用の検討は今後必須となります。そうした背景から、宇佐川は「リーガルオペレーションズ推進課」を新たに設立しました。

「これからは、高い法的スキルを生かしつつ、組織全体の効率とケイパビリティを高める方針です。リーガルオペレーションズ推進課の取り組みは、海外のコカ・コーラ ボトラー社でもリーガルオペレーションズ部門をつくる動きがあり、グローバルに認識された必須機能であると感じています」

法務部門の課題解決に向けて、リーガルオペレーションズ推進課の設立はひとつの大きなステップといえます。以上のような取り組みから、法務本部に対する印象とアクセスのしやすさが徐々に高まり、相談の件数も増加しているといいます。会社専属の“かかりつけ医”としてうまく機能し始めているのです。法務部門は、一般的な営業部門のように、明確な利益目標を設定することは難しい組織です。しかし、リーガルオペレーションズ推進課では契約処理件数やリードタイム、弁護士費用などのデータに基づく改善活動も開始しました。

法務部門の将来展望について宇佐川は「今後も高い専門性とコミュニケーションスキルを生かし、社内クライアントから頼りにされる存在となるとともに、お客様や市場から信頼される企業の基盤を作る部門として、企業価値の向上に貢献していきたい」と力強くコメントしました。

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